6月25日 リアボックスのステーが完全崩壊

ケメロヴォのウラジミールさん宅でゆったりと2泊させてもらった後、途中、幹線道路沿いのガスティニッツァで1泊。周囲に町のないその宿は1泊2500ルーブル。法外な価格とは言えないが、質の割にとても高く、良い宿とは言い難かった。

私は、大陸を旅することで、自分が大きく変わると思っていた。予想外に変化することを期待していた。しかし実際は、変わることのない自分ばかりを見つける。そして自分を知る。なにに喜び、悲しむのか。私は全てを持っていて、他に必要なものは、この広い広いユーラシア大陸の上で、それほど多くないことに気づいている。

日常生活に縛られない中で、アキオという人をじっくりと感じている。私たちが他所の土地に来てあまり交流を深めることがないのは、二人で居るだけで満たされているからだろう。旅のイメージは出発前と大きく違っている。しかし、文字どおり「掛け替えのない」旅行をしている。未来のために。



オムスクに入り、酷い凸凹道を走っていたら、リアボックスのステーが完全にバイクから外れた。交通量が多い中、事故に至らなかった幸運に感謝する。

目的地の宿までの距離17㎞。路肩にバイクを停め、積荷を散らかしている私たち。声をかけてくれる人が一人だけいたが、声をかけてくれただけで過ぎ去っていった。知らぬ町で、身動きが取れず、誰の手助けもない。

誰の助け舟も来ないのは、私たちがトラブルに遭っているように見えなかったからだろう。二人して「どうしよう」と言い合って、笑っている。通り過ぎる人々からすれば、どちらかというと幸せそうな男女に見えていただろう。

確かに私たちは、ちっとも不運だとは感じていない。



「タクシーで私とリアボックスが宿へ向かい、アキオがそれについて行く」という手も考えた。しかしタクシーなど走っていない。それに一人でタクシーに乗りたくない。誰かが車に乗せて行ってくれたらと想像するけれど、現実の人々は忙しい。

残された手段。タンデムシートの上にリアボックスを乗せて、紐で縛って固定する。快晴、気温35℃。17㎞の距離を私は一人で歩いてゆくのだろうか?

アキオは当たり前のように、タンデムシートに乗ったリアボックスと、運転するアキオとの間にナナが乗れば良いと言う。私はサンドイッチされる。炎天下の凸凹道を、アキオと私とリアボックスの3者が、ぴったりとくっついて走る。たのしいねぇ。



宿の場所がわからず、広いカフェで、コーヒーとペプシを注文して道をたずねると「あっち」とだけ教えてくれた。その方向に、宿はあった。垂れ幕のような看板は、半分めくれてぶら下がっている。3階建ての建物の3階部分が宿。人気のない場所。少し不安。

チェックインしてバイクに戻ると、少し離れた場所から4〜5人の若者がこちらの方を見ている。ちょっと怖いなぁと思っていたら、一人の青年が歩いてきて「日本人?」と訊いてきた。「ヤーイポーニィ!」と答えると、笑顔で両手を胸の前で合わせてお辞儀をして立ち去り、仲間のところへ戻り「やっぱ日本人だって!」って感じでワイワイ言い合って、その後すぐにみんな一つの車に乗って走り去って行った。

イルクーツク周辺で不幸にあった男性は、こんな感じで現地の若者と出会ったのだろうかと想像する。するとそのすぐ後、ポパイみたいな体つきのおじさんが話しかけてきた。ウラジオストックはあっちでモスクワはそっち、カザフスタンはこっちだと、指をさしながら札名してくれているよう。でも言葉が全くわからない。ひとしきりしゃべった後、「日本の金はあるか?」と聞いてくるので、一瞬たかられているのかと勘ぐった。私が持っていた1円玉、10円玉、50円玉を見せると、目をキラキラ輝かせて「うわぁ〜これが日本のコイン!」と、とっても喜んでくれた。

ルーブルよりドルを欲しがる人が多いのかと予想していたけれど、日本の通貨に興味を持っている人は結構いるようだ。ケメロヴォの修理工でも「円はないの?」と訊かれ「あ〜ないのよね〜」と答えると、笑いながら「それは残念!」って感じだった。



最初に立ち寄ったカフェで夕食。ウズベキスタン料理店で、カフェという看板を掲げているが本格的なレストランのような料理と配膳。疲れていたのでカップ麺で済まそうかと迷っていたけれど、食べに来て良かった。

シャシリクはオススメの部位(腰)で330ルーブルと、他の部位の倍近くの値段。オススメのスープにも大きな骨付肉が入っていたし、プロフにもお肉が入っていた。おなかいっぱい食べて1005ルーブル。約1600円。

他のお客さんは皆、観光客なのか、綺麗な格好をして華やいでいる。地元の人がお茶を飲みにくるようなカフェではないようだ。



夕食を終えて、タバコを買いに、マガジンを探しに歩く。午後8時過ぎ。オムスクは大きな町だと聞いていたけれど、この界隈は、交通量は多いが歩いている人は疎ら。マガジンが見つからず宿へ引き返す。

ポパイのおっちゃんにマガジンの場所を聞いていると、おっちゃんよりも若い男が出てきて「お前なにしゃべってんだ!仕事しろ!」という雰囲気で怒鳴っている。お喋りが好きなおっちゃんは、チェって感じで仕事に戻る。

今日は頭痛のピークだ。と思っていたら月のものが来た。ハバロフスクの一件があったので、私は心の底からホッと安心の溜息。二人で喜ぶ。この宿は1泊(24時間)1300ルーブル。比較的安め。

部屋は少し狭く、シャワーの水量は良くない。でもなぜか落ち着ける。ほどほどに清潔で、無臭。喫煙スペースが近くにあって、夜中でも気兼ねなく一服できる。



私たちは二人とも、そもそも人付き合いが苦手だ。人との交流よりも、二人の時間を優先している。お金を払ってでも。

必要なことは、必要な時に、必要とする。



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